監督は中国北京出身のクロエ・ジャオ。
前作『ザ・ライダー』は致命的な事故にあった実際のロデオカウボーイである
少年の苦悩の物語でした
同時に馬と人間の太古からなる濃密な関係性も描いており、現代の西部劇の名に相応しく
アメリカの真髄を『ザ・ライダー』に観ることができました
そして待ち望まれていた長編第3作となるのが本作『ノマドランド』です
ジェシカ・ブルーダーが2017年に発表したノンフィクション『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』を原作としています
それを読んだフランシス・マクドーマンドが映画権を獲得し、クロエ・ジャオ監督の
『ザ・ライダー』に感動した彼女は
本作の監督にジャオを起用するという経緯となったのでした
制作したフランシス・マクドーマンドのユーモアと洞察力と
クロエ・ジャオ監督のしなやかなコンテクスト感覚の融合
才能ある2人の奇跡的な出会いは新しいアメリカンルミイズムを感じてしまいます
フランシス・マクドーマンドと言えば1996年ジョエル・コーエン監督作品
『ファーゴ』の印象が根強く残っています
演じたキャラクター女性署長マージは、映画史に特筆されるほど人々の記憶に残りました
その演技は絶賛され、あらゆる賞という賞を総なめにしました
物語の舞台は冬のミネソタ州ミネアポリスで、夜は氷点下20度以下まで下がることも
少なくないと言います
観てるだけで鳥肌が立つ非常に寒冷な気候の中で撮影が行われていたのですが
そこに佇むフランシス・マクドーマンドの印象は、意外なほど冬が似合っているという
ことでした
重鈍な根を降ろす灰色の曇り空が表す意味、言葉では言い尽くせない空虚という
感情の連鎖を女性署長マージが否し、洗い流す姿を『ファーゴ』に観ることができました
本作でもマクドーマンドが時代を正しく捉えようとする姿勢、整えようとする身体性は
主人公ファーンにも受け継がれています
ノマドランドとは一体どういう映画なのか
2008年アメリカの大手証券会社の破綻に端を発する未曾有の経済危機が
全世界を襲ったリーマンショックに由来します
その影響により職を失った多くの世代と、煽りから今も立ち直れずにいる高齢者たちが
家を失い日雇いの職を求めて全米各地を流浪する旅に出てる物語です
同じ境遇の彼ら互助の精神を保持したカルチャー文化の存在を現代のノマドと
呼び始めたのでした
物語はフランシス・マクドーマンドが架空の人物ファーンを演じ、もう一人の俳優デヴィッド・ストラザーン以外は本職の俳優は起用せずにファーンの姿を通して見放された高齢者の人々の実像に迫っています
そこに虐げられた出来事の連続はなく、むしろ循環という終わりのない精神的由来から
ノマドの人々が共有する
アメリカ文化の一つが現代の価値観に通じることを伝えているのでした
クロエジャオが『ザ・ライダー』で描いたレトリック欠如の美しさ、
巧みな映像の美しさのルーツはそのままに、
観る者の感情に浮力を与え
あるがままを肯定する力が推進力となってノマドランドを普遍の地平へと送り出しています
原作者ジェシカ・ブルーダーが3年を費やし自らもノマド生活を行いルポを行いました
愛犬キャバリアと暮らすリンダ・メイ64歳を追いかけた作品で
映画よりリアルなノマドが描かれているといいます
そこには資本主義国家のリーダーであるアメリカのもう一つの現実が見えてくるはずです
生活困窮者は、支出を減らす上で一番大きな住居費を手放して車上を避難所と移動手段にし
放浪生活を選ぶという選択をし、自由を得たのです
「ノマド労働者が車を停める場所こそアメリカ最後の自由の土地」
幸せの再定義をしホームレスではなくハウスレスと彼らは称しています
現代社会のインフラを使いこなしノマドは生活を維持しています
逞しく生きる姿に悲壮感はありません
しかし忘れてはいけないのが、ワーキャンパーのほとんどが白人系で構成され、
ノマドを選択できるのは『白人』という特権が必要になってくるということです
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